【Common Journal vol.11 「カリモク60 栗原麻衣子さん」】

コモンにまつわる日常の風景や物語をお届けする『Common Journal』。第11回は、家具ブランド「カリモク60」の運営に携わる栗原麻衣子さんをゲストにお迎えしました。

ブランドの歩みや、ロングライフデザインに込められた思い、そして顧客視点に立つブランドと製品の在り方に触れる、貴重なひとときとなりました。

新宿駅から徒歩5分。明治通りに面したカリモク60 新宿店には、どこか見覚えのある、長く愛されてきた家具たちが並びます。リビングやダイニングなど、さまざまな暮らしのシーンを想定したスタイリングが施されていました。

「どうぞ、おかけください」と栗原さんにすすめられたのは、「Kチェア」。心地よいウレタンの弾力、絶妙な奥行きとシートハイ、木肌のぬくもりが伝わるアームレスト。1962年に誕生したこの一脚は、まさに「カリモク60」を象徴する存在です。

「Kチェア」のアーム部分は、LCルーターで削り出したあと、職人の手で一つひとつ丁寧に研磨。なめらかで心地よい肌触りが生まれます。

栗原さんに、「カリモク60」とはどのようなブランドなのか、改めて伺いました。

「『ロングライフデザイン』をテーマにしています。変わらないもの、いわゆる定番や、会社の原点となるようなもの。そうした価値を体現しているブランドです。ただ懐かしいだけではなく、今のライフスタイルにも自然となじむ新しさもある。そんな両方を兼ね備えています」。

「ロングライフデザイン」という考え方を提唱したのは、D&DEPARTMENT PROJECTを創設し、デザイン活動家として知られるナガオカケンメイ氏です。

2002年、ナガオカ氏は「60VISION(ロクマルビジョン)」というプロジェクトをスタートさせました。1960年代に生まれた、シンプルで品質の高い製品と、その背景にある思いや技術を掘り起こし、あらためて普遍的な価値として再定義していく──そんな志を共有する企業が集う共同プロジェクトです。

1962年の誕生以来、一度も製造中止になっていない「Kチェア」の図面。カリモク60を象徴するマスターピースです。

その第一号として名乗りを上げたのが、カリモク家具株式会社でした。1960年代に誕生した家具とブランドのあり方を再編集し、新たなブランド「カリモク60」が生まれたのです。

「もともと、D&DEPARTMENT PROJECTの店舗で、カリモクの製品を中古家具として扱っていただいていたんです。その際、ナガオカさんから“これは廃番にしてはいけません”と言っていただいて。ロングライフデザインという考え方に、私たち自身があらためて目を覚まさせてもらったんです。カリモク家具販売としても、D&DEPARTMENT PROJECTとナガオカさんの存在はとても大きいです」と栗原さんは振り返ります。

栗原さんが個人的に気に入っているのは、「カフェチェア」。座面の低さと、ハの字に広がる脚部が特徴です。張地には、表情豊かな素材「モケット」が使われています。

「ロングライフデザイン」を唱えるうえで、強みの一つとなるのが「修理への対応力」です。部品一つからの交換に応じ、もし現物が残っていなければ図面を引き直すこともあるそう。こうした対応力は、データの蓄積と、分業ではなく一貫生産がなせる技です。

「40年前に新婚で買ったんです」「初任給で購入しました」「祖父母が大切に使っていたものです。まだ使えますか?_」──カリモク60の直営店には、そのようなお客様の声が数多く寄せられるそうです。どれほど古い製品であっても、できる限り修理対応を行う姿勢は変わりません。ただ家具を販売するのではなく、そこに刻まれた時間や記憶、そしてお客様の思いまでも丁寧に受けとめる。企業としての誠実さが、静かに伝わってきました。

教育機関やオフィス、飲食店などで「Kチェア」に座ったことがある方も多いのではないでしょうか。現行品には「カリモク60」のブランドプレートが取り付けられています。

そうした姿勢は、現行の製品にも脈々と受け継がれています。たとえば、Kチェアの見た目は大きく変わっていませんが、その内側では改良を重ねてきたそうです。

「もともとは、『Sバネ』の上にウレタンを載せた、一般的な座面の構造でしたが、現在では形状を山型にすることで耐久性を向上させ、ウレタンの密度を上げて座り心地をさらによくするなど、アップデートもしています。どうしても消耗を感じる部分は出てきますが、長く愛着を持ってお使いいただくために、見えない部分で努力することが大切だと感じています」

「カリモク60」の母体であるカリモク家具株式会社は、1947年(昭和22年)、愛知県刈谷市の木工所を起点に法人化されました。一方、「コモン」を運営する西海陶器株式会社も、1946年に創業。ともに戦後の同時期に歴史を紡ぎ、ライフスタイルの変遷とともに、それぞれの分野で暮らしに寄り添い続けてきた企業です。

現在、カリモク60 新宿店では「コモン」のコーナーを設けてくださり、プロダクトをお取り扱いいただいています。普遍的なデザインのひとつとして受け入れてくださることに、私たちとしても喜びを感じています。

カリモク60 新宿店には、コモンのコーナーも設けられています。8月に開催されるポップアップでは、製品の背景にあるストーリーを、ビジュアルとともにご紹介できればと考えています。

そこで栗原さんに「コモン」の魅力をお尋ねしました。

「やはり、シンプルで手に馴染むデザインに惹かれました。そして和洋を問わず使える。『持った瞬間に感じる良さ』というのは、世代を問わず伝わるものだと思います。スタッキングしやすく収納にも優れていますし、食洗機対応など日常使いに適した丈夫さも魅力です。ご家庭でもカフェでも活躍できる汎用性の高さは、弊社の家具にも通じるところがあると感じました。私自身、子どもがいるのですが、気兼ねなく日常使いできるというのは、やっぱり大切。素敵な器でも、緊張感のあるものは、日々の食卓にはなじみにくいこともありますよね。その点、コモンは毎日使いたくなる器だと感じています」と嬉しいお言葉をいただきました。

「ハリオさんとのガラス製品も魅力ですね。とにかく技術力が素晴らしくて、無駄のないデザインが使いたいと思わせてくれます」と栗原さん。


カリモク60 新宿店では、8月7日より「コモン」のポップアップを開催します。定番商品の販売に加えて、器づくりの工程やこだわりをお伝えする展示も行う予定です。実際に生地を成形する際に使用する石膏型もご覧いただけます。

「当店で取り扱う雑貨は、長く作り続けられていて、安定して供給できるものを重視しています。季節ごとにデザインが変わってしまうものだと、どうしてもご提案が難しくなってしまって。コモンは、その点でも弊社の製品と親和性が高く、共通する価値観を感じています。今回のポップアップをきっかけに、より多くの方にその魅力を知っていただけたら嬉しいです。色違いで楽しんだり、少しずつ買い足したりと、使い手の自由な感覚で長く付き合っていただけることもご提案できればと考えています」と栗原さん。

「コモン」は2014年にローンチし、2015年から国内販売をスタートしました。「カリモク60」の製品と比べれば、まだまだ駆け出しです。ロングライフデザインを体現し、努力を惜しまない先輩の背中を追いかけながら、私たちもまた、長く愛される日用品を目指して歩みを重ねていきます。 栗原さん、貴重なお話をありがとうございました。


長崎の波佐見焼 Common「長く使える、ふつうのかたち」

会期:8月7日(木)-9月15日(月・祝)

会場:カリモク60 新宿店

住所:東京都新宿区新宿4丁目2-23 新四curumuビル 1F

TEL  :03-5919-2890

カリモク60

カリモク家具のDNAを受け継ぎ、ロングライフデザインをコンセプトに展開する「カリモク60」。

1940年に愛知県刈谷市で創業した木工所を起源とし、1962年に国内向け木製家具の製造を開始。以来、カリモク家具として時代の流れに左右されることなく製造・販売しつづけてきたアイテムと、当時生産されていたものを復刻し、再編集したブランドです。歴史に裏打ちされた技術と、ものづくりに誠実に向かい合う姿勢、そして携わる者たちの深く熱い思いがしっかりと受け継がれています。単なる「復刻」ではなく、長くつきあうことのできる普遍性のある提案。そこには、いつの時代も変わらない心地良さがあります。

https://karimoku60.jp/

撮影場所:カリモク60 新宿店(東京都新宿区新宿4-2-23 新四curumuビル 1F)

撮影: 阿部健 @t_a_b_e